春を誘う、菜の花色の「なたね油」
エッセイスト 湧月りろ
また雪がちらついてきた。
この冬、最後の寒波が日本列島を覆いつくすという天気予報通り、今日は京都市内も雪化粧になりそうだ。
先週、山中油店さんを訪れた時、おかみの浅原貴美子さんにいいことをお聞きした。
「春におすすめしたい油があるんですよ」
その言葉に、ふと思った。
油を“季節”でとらえたことが今まであっただろうか。
油の季節感。あまり気にしていなかった気がする。
春と言えば思い付くのは春の食材。
春キャベツに新玉ねぎ、新じゃがにさやえんどう、蕗や蕗のとうなど山菜、筍もいいし菜の花もある。
そう、菜の花……そうだ、菜の花の香る油がある。
それが、おかみさんおすすめの「国産なたね油」。
以前、お店でテイスティングさせてもらった時、数種類あるなたね油の中でも香りの豊かさでは最上級だと感じた商品だ。
口に含んだだけで脳内に菜の花畑の情景が広がる、なんとも幸せな油なのだ。
香りだけでなく、味わいもまるで菜の花のお浸しを食べているかのよう。
油自体がこんなにも野菜テイストだなんて。正直、驚いた。
そもそも色合いがもう、まさに花の色。早春の陽射しを吸い込んだ花びらの色。
輝くような鮮やかな黄色。春そのもののイメージだ。
どうしたらこんなに華やかな油になるのだろうと思ったら、それもそのはず、驚くほど丁寧で真摯な作り方をされていることが山中油店さんのサイトに書かれていた。
岩手県にある工房を訪ねられた際の紀行文「あぶら紀行~工房地あぶら編~」をぜひ読んでみてほしい。
安全性を重視し無農薬で育てた北海道産「キザキノナタネ」を、窯と薪を使ってじっくり焙煎し、手作業で時間をかけて搾られた油。
化学物質は一切使わず、その手間暇のかけようは効率という言葉とは無縁だ。
だからこそ素材の味わいをここまで残し、最大限に活かすことが可能なのだろう。
おかみさんのアドバイスによると、菜の花と同じアブラナ科の野菜とは相性がピッタリとのこと。
カブや大根、キャベツに白菜のほか、ブロッコリー、カリフラワー、水菜、小松菜、チンゲン菜、クレソン、ルッコラなどなど、アブラナ科の野菜は普段から慣れ親しんだものばかり。
しかもビタミンやポリフェノールを豊富に含み、季節の変わり目に意識しておきたい免疫力の向上にも一役買ってくれる優れもの。
これらにとっておきの国産なたね油を合わせて、この時期まさに“推し”の一品を日々の食事に添えれば、いつもよりグッと気の利いた食卓にできそうな予感が走る。
こんなふうに、油の個性を活かせる料理のヒントも教えてもらえるのだから、お店へ足を運ぶ甲斐があるというものだ。
さて、まずは何と合わせてみようか。
そろそろ出回り始めた春キャベツに熱を加えて甘みを引き出し、春のエキスをまとわせてみようか。
それともスライスしたカブを生のまま塩でしんなりさせて、あっさりお醤油味に花の香りを添えてみる?
持ち帰った国産なたね油の瓶を眺めながら、心はもうすぐそこまで来ている明るい陽射しへと飛び立ち始めた。
油で春を先取りするなんて、今まで気付かなかったちょっと新鮮な感覚。
この雪がやんだら、春を探す買い物に出かけるとしよう。
2025年2月19日