和えるだけでご馳走! バジルペーストとゼフィーロは元気をくれる華やかな香り

エッセイスト  湧月りろ

ゴールデンウイークが近づくと、昔からよく長岡天神さんへキリシマツツジを見に出かけたものだ。

正式名称は長岡天満宮。菅原道真を祀る神社で、広い境内には大きな「八条ケ池」があり、水辺を真っ赤に彩る樹齢百数十年のキリシマツツジが壮観な風景を生み出す。京都市内からも近く、ドライブにはちょうどいい距離にある名所だ。

参拝のあと、周辺を散策すると「朝掘りタケノコ」と書かれた札があちこちに出され、まだ湿り気を帯びた新鮮な筍があちらこちらに並んでいる。

これがもうひとつの私の楽しみなのだ。

やわらかさが特徴の京筍。その産地として知られるのがここ長岡京市と周辺である。

有名な料亭や市場に出荷したあと、サイズや形が不揃いなせいで残された筍を農家の方々が自ら直売している。少し小さめのものや大きすぎるものが手ごろな価格で並べられ、農家の方と言葉を交わしながら選ぶのがまた楽しい。

どっさりと車に積んで自宅に帰ったら、何はともあれまず茹でる。

「筍は顔を見たらすぐ茹でんとあかんのんえ」

幼い頃から母にそう言い聞かされたものだ。

茹であがった筍は若竹煮に筍ご飯、木の芽和えに山椒煮、天ぷらもおいしい。

地元のお宮さんの春祭りには、筍と蕗、生節の炊き合わせが必ず食卓にあがる。その煮汁で炊いた木綿豆腐も筍の風味が移って味わい深くなる。

前日に仕込んだ鯖寿司と、大きな絵皿に盛りつけた鯛そうめんが揃い、神輿をかついで日焼けした父が帰ってきたら祝宴の始まりだ。

京都の初夏の食卓には筍が欠かせない。

 

さて、ゴールデンウイークも終わった今、定番の筍メニューもそろそろ食べ飽きた頃ではないだろうか。
そんなときにおすすめしたいのが、山中油店さんで教わった筍の木の芽和えならぬバジルペースト和え。

 

 

 

 

 

さいの目切りにした筍をペーストで和えるだけで仕上がるスピード料理なのに、まるで創作イタリアンの有名店で出される一品のようなテイストになる。
このペースト、さすが油の専門店に選ばれた品とあって、質の良いエキストラヴァージンオリーブオイルが使われており、バジルの香りを上品に包み込んでいるのが特徴。
あとくちにミントのような爽やかさを残す贅沢なバジルペーストと筍の組み合わせ。これはもう文句なしにおいしい!

私はこれに、前回のエッセイで登場したエキストラヴァージンオイル「ゼフィーロ」とお醤油を加えてみたのだが、これが白いご飯にあまりにもよく合って感激した。
ゼフィーロの華やかさと、発酵食品であるお醤油ならではのコクがバジルによく似合うのだ。

普段の食卓に、ご飯のお供として試してみていただきたい。
もちろんこのペースト、茹でたパスタにそのまま混ぜれば本場のジェノベーゼが出来上がるので、筍のスライスやイカなどを加えておしゃれなひと皿を作ってみて欲しい。

こちらをご参考に。

「<おうちごはん>パスタでごはん!」

<おうちごはん>パスタでごはん!

 

最後にご報告をひとつ。

前回、話題にしていたカツオのたたきをゼフィーロで漬けにする計画、さっそく実行してみた。たたきににんにく醤油をかけてしばらく置き、ゼフィーロを回しかけただけ。

 

口に入れたとたん、思わず膝を叩いた。

いける!

これはおいしい!

赤身の魚が持つ底力のある味わいに、上質な油にしか出せないおっとりとしたまろやかさが加わると、程よく脂ののった刺身のような感触になる。それと同時に香りは一気に変化し、わらで焼いた独特の香ばしさとゼフィーロの華やぎが重なって層をなす。

ゼフィーロを足すことで、明らかに味わいに厚みが出るのだ。

ミョウガや白髪ねぎ、生姜などの薬味と和えても、ゼフィーロは上手においしさをサポートしてくれる。

これはちょっとクセになる魚の味わい方だ。

一度このおいしさを覚えると、ゼフィーロなしでは頼りなく感じてしまう。

少しずつ気温が上がっていくこの時期、エキストラヴァージンオリーブオイルとバジルが織りなす香りの魔術にかかって、夏に向けてしっかり元気を蓄えておきたいものだ。

2025年5月7日

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