簡単で早い! おだしドレッシングで青菜の炒めもの
エッセイスト 湧月りろ
少しずつ日の暮れが早くなり、伸びた影が地面に溶け始める頃、どこからともなく聞こえてくるかすかな虫の声。
シンとした空にトンボが舞い、季節はちゃんと前に進んでいるよと教えてくれるようだ。
二十四節季では処暑、暑さもおさまる頃だとされているが、いかんせん気温だけは全く落ち着く気配がない。
台所の熱気も少しは冷めてきたものの、やっぱり調理にはスピード感が欲しくなる。
そんな時、私の強力な味方が「おだしドレッシング」。
「夏のさっぱりせっと」に登場する、山中油店さんの大人気商品が本当に便利なのだ。
ドレッシングという名称なのでサラダに、と思いがちだけれど、じつはもっと使い道が幅広い。
以前に書いたエッセイ【かつお節の優しい香りがフワリと広がる「おだしドレッシング」】の中でも少し紹介しているが、炒めものの時にすこぶる使い勝手が良いのである。
これひとつで味も決まるし、食材を選ばない。
体に優しい圧搾なたね油が入っているので、油を敷くという作業さえ不要だ。
そろそろ夏の疲れが溜まってきている今日この頃、栄養価の高い青菜を「おだしドレッシング」でサッと炒めてみるのはいかがだろう。
熱したフライパンにざく切りにした青菜を入れ、同時におだしドレッシングも入れて素早く炒めたらもう出来上がり!
火の通りを気にする必要のないカニ蒲鉾などを合わせば、ものの2分ぐらいで完成してしまう。
これぞ、夏のお助け調味料!
今回は京都の伝統野菜「壬生菜」を使った。
茎のシャキシャキ感を残したいなら加熱は1分以内で十分。
壬生菜ひと袋につき、おだしドレッシングは大さじ2杯ほどがちょうどいい。
よく振ってから加えれば、具合よく油分と味が全体に回る。
小松菜など細めの青菜ならすぐに火が通って手間いらずだし、青梗菜など少し加熱時間が必要な野菜ならば先にサッと熱湯に通しておくと上手に仕上がる。
豚肉やホタテなどを青菜の相棒に選べばメインのおかずに昇格。
あっさりしていくらでも食べたくなる、クセのない味わいが魅力だ。
京都では、いわゆる「京野菜」と呼ばれる食材がよく食卓に上がる。
今でこそ、地域によってはブランド野菜として扱われていることもあるが、地元民にとっては昔から慣れ親しんできたもの。
壬生菜や水菜のように、本来は冬場の野菜ではあるものの、今や一年を通してスーパーで買えるようなものもあって、なにかと便利に利用している。
お揚げさんと炊いたり、ぽん酢と胡麻油でお浸しに、お味噌汁やスープの具に……。
漬けにして細かく刻めば、白ご飯が進んで困るぐらい病みつきになる。
もちろん生のままサラダにするのも好き。
たいていの京野菜は旬の時期だけに出合えるものなので、京野菜で季節を感じ取ることも多い。
今年の夏は賀茂ナスに賀茂のトマト、万願寺とうがらしに細長い伏見とうがらしなど、たくさん楽しませてもらった。
丹波黒大豆の枝豆「紫ずきん」は甘みがあって豆の風味がよく、むっちりした食感がビールの友に最高だ。
大きなひょうたん型の鹿ケ谷かぼちゃも京都の夏の味覚だが、これはそうそう出合えない。
たまに売られているのを見つけるととても嬉しくなるのだけれど、大きすぎて買うタイミングを考えてしまう。
最近のホクホク系かぼちゃとは違い、昔ながらのあっさりした味と、煮汁をたっぷり吸いこんでほろっとほどける繊細さが特徴。
強い味付けをせず、おだしの風味で優しく炊くのが似合う。
この魅力を理解したのは大人になってからだ。
静かなお座敷で精進料理をいただく時、口の中でサラリと溶けるような、やわなかぼちゃに心が安らぐ。
こんな時には、歳をとるのも悪くないと思えるものだ。
そうだ、これこそ、おだしドレッシングで風味付けをしたら似合いそう。
夏の名残に、リュックサック持参で鹿ケ谷かぼちゃを買いに出かけようか。
少し遅いかな。
秋は待ち遠しいけれども、もう少しだけ私の夏を楽しんでいたいような、そんな気もする。
2025年8月30日