青みのある国産なたね油の香りを生かしたおしゃれなソース 【冬のパンフレット掲載レシピ】 国産なたね油
エッセイスト 湧月りろ
「和食は引き算、フレンチは足し算」とは、料理界でよく言われる言葉だ。
いかに素材の味を生かすか。そこに重点を置く和食に対して、どんなソースをプラスして料理を完成させるかと考えるのがフレンチ、というわけだ。
ソースの文化というのもじつにおもしろく、同じ食材でもソースを変えることでまったく違うひと品として成り立つ。
どちらも奥が深い。

山中油店さんの国産なたね油は、以前にも書いた通り、口に含んだとたん菜の花畑が目の前に広がるようなしっかりした香りがある油である。
青くさわやかな芳香がなんとも贅沢。
この青みが春菊に似合うとお店でお聞きし、さっそく教えてもらった春菊のソースを試作。
白身魚に合うよう、自分なりに味加減を工夫してみた。
とても簡単にできるレシピだけれど、けっこう凝っているように見える。
そこがいい。
私が思う大事なポイントは、春菊の20秒ルールだ。
じつは子どもの頃、春菊が好きではなかった。
なんだか苦くて青くて……。
しかしこれは、苦手意識があるせいもあって、よく煮えてから食べていたのが原因だったのだ。
春菊は熱を通すほど苦みが出る。
味にうるさい兄が、春菊はお湯にくぐらせる程度で食べるのがウマいと言うので半信半疑で食べてみたところ、おいしいではないか!
苦みがまったくなく、青みはなんとも爽やか。
その日から大好物になってしまった。
後年、テレビ番組で春菊について検証しているのを見たら、
「春菊の20秒ルール」を提唱していた。20秒以上、加熱すべきでないと。
なるほど、兄の言ったことは本当だったようだ。
国産なたね油が持つ菜の花の香りは、この春菊の爽やかさを上手に引き立てくれる。
相性バツグンだ。
だから春菊を炒める時には、ぜひ20秒以内に火を止めていただきたい。
火を通しすぎないことで色鮮やかなエメラルドグリーンのソースに仕上がるので、冬のおもてなし料理としてもおススメだ。
じつは京都では、春菊とは呼ばない。
私も昔から「菊菜」と言うので、子供の頃は「春菊って何?」と思っていたぐらい馴染みのない名前だった。
今朝、このソースを作ろうと思い、買い物に行くと言う家族に「菊菜を買ってきて」と頼んだところ、
しばらくして電話が鳴り、「菊菜は売ってないわ。春菊ならあるけどなぁ」と困り果てていた。
「え、一緒ちゃうん?」と返事したが、興味が湧いてちょっと調べてみた。
「春菊」と「菊菜」。
“春の菊”という、季節感あふれる呼び名は、この植物が春になると菊に似た花を咲かすことから名づけられたという。
食材としての旬は秋から冬だけれど、寒い時期に春を思い起こさせる、とても素敵な名前である。
一方で「菊菜」は、おもに関西で使われている名称。
食材の歴史的には、そもそも関西から始まったものだそうで、菊の葉に形状が似ていることから名づけられたとのこと。
厳密にいうと、春菊と菊菜は種類が少し違う。
春菊は太い茎から次々と葉が出る種類の植物で、葉だけを摘み取ったり、茎がついたままの状態で販売されているが、
菊菜は根元から長い葉がふさふさと生える株状のもので、ほうれん草などのように株の状態で販売されている。
菊菜のほうが苦みやアクが少なく、生でも食べやすいのが特徴。
とはいえ、今では関西でも茎状の春菊がごく普通に売られ、値札には「春菊」と書かれていたり、「菊菜」と書かれていたり。かなり曖昧だ。
地域によっては他にも呼び名があるそうで、調べるとなんともおもしろく、これまた奥深くて興味は尽きない。
どちらにしろ、関西では冬には冷蔵庫に常備するほど親しみ深い食材であり、特に鍋物に欠かせない。
他の地域でもきっと“冬の愛され野菜”なのだろう。
この冬は国産なたね油を利用して、春菊レパートリーをさらに大きく広げてみてはいかがだろうか。
《レシピ》

◆タラのムニエル 春菊ソース添え
【材料】2人分
生タラ:2切れ
小麦粉:適宜
塩:適宜
春菊:1/3パックほど
牛乳:大さじ1杯半
国産なたね油:タラ焼き用・大さじ1、ソース用・大さじ1
醤油:小さじ1
ブラックペッパー:適宜
つけ合わせ野菜 :なんでもOK。お好みで!
- タラは軽く塩をふり、15~30分ほど冷蔵庫で寝かせておく。
- 春菊ソースを作る。
春菊は5センチほどに切っておく。フライパンに国産なたね油(ソース用)を熱し、春菊を入れてサッと炒める。ミキサーに牛乳、醤油、ブラックペッパーを入れ、炒めた春菊を油ごと加えて撹拌する。
- 1のタラから出た水分をキッチンペーパーでしっかりふき取り、小麦粉を薄くまぶす。フライパンに国産なたね油を熱してタラを入れ、焼く。皮目を油に当ててカリッと焼くと美味しい。
- お皿にタラをのせ、ソースを添える。つけ合わせを盛り付けて完成。
☆アレンジその1:牛乳を生クリームに替えて、ガーリックパウダーひとふりを加えミキサーで撹拌したあと、酢をほんの少し加えて軽く混ぜると、まったりとした濃厚ソースに!
☆アレンジその2:春菊の茎の部分(やわらかい部分のみ)を葉と一緒に炒め、軽めにミキサーにかけると、春菊のサクサクした歯ごたえが心地いいソースに!
2025年11月12日